Masuk「久しぶりだな、ジュリエッタ令嬢」
「はい。ご無沙汰しております、陛下」国王陛下は、優しい表情でうんうんと頷いてくれた。
私は、幼い時から第二王子ヴォルシングの婚約者だった。必然的に、国王陛下や王妃様に会う機会もとても多く、優秀な子だと、大変可愛がってもらっていたのだ。 ――異世界から、聖女がやってくるまでは。 しかし、婚約を破棄しても、陛下や王妃様から嫌われているわけではない。 今回も、話すら聞かず私に罪を問うような空気ではないことを感じて、私はほっとした。「本当に、元気に過ごしているようでよかった。こんな朝早くから呼び立てて悪かったな。実は、今朝早く、神殿に神託が下ったのだ」
「神託、でございますか」 「ああ。内容の説明は、同席させている大神官からさせよう」陛下がすっとアリサの後ろへと視線を向ける。それを受けて咳払いしたのは、初老の男だった。
ずるりと床を引きずるような、真っ白に金の縁取りがなされた神官服。袖の部分に3本のラインが入っているのは、大神官である証だ。 その男は衣擦れの音をさせながらアリサの前へと進み出ると、厳しい目で私を睨み付けた。大神官には、あまり良く思われていないらしい。「……あー、えっほん。私は、この首都にあるロザリンデ教、主教会の大神官を務めている、ラニエルと申します。本日の日の出の頃、我が神殿の祭壇へと、神の御言葉がおりたもうたため、急ぎ国王陛下へと報告をいたしました」
丁寧に前置きをして、大神官は丁寧に頭を下げた。不機嫌な顔はそのままだが、きちんと礼儀はなっている人物のようだ。
「それで、ロザリンデ様は仰られたのです。我が忠実なる遣いを、地に与えたもうた。聖女と共に、この国に繁栄をもたらせるだろう――と」
神の神託を朗々と告げると、胸元のロザリンデ像をかたどったネックレスを握りしめ、大神官は口早に祈りの言葉を呟いた。
――女神ロザリンデ。このアーヴェルト王国において、王国の繁栄を約束し、豊かな実りと平和を授けてくれると言われている、女神だ。 この国に現れる異世界からの聖女や、ロロのような神獣は、全てロザリンデが遣わしてくれたものだとされている。王国の国民は、幼い子供までも祈りを捧げる、とても愛されている女神様だ。 事実、女神ロザリンデから神殿へと下される神託によって、この王国は何度も飢饉や災害、疫病などから救われている歴史がある。 女神ロザリンデは、全てを見守り王国を守ってくれているのだ。 ロロが神獣であるとわかったのは、私が昨日、ロロを治療して助けて……さらにその夜遅くだったはずだ。屋敷内で、お母様や私以外の人間にロロの存在が知られたのも、今朝になってから。 きっと神官が主張している神託というものは、本当に女神から下されたものなのだろう。 大神官は祈りの言葉を終えたのか、また特徴的な咳払いをして話を続けた。「えっほん。ほん。……あー、それでですね。我が神殿は神託を下されてから早急に、王宮へとやってまいりました。神託の通りであれば、聖女アリサ様の元に神獣様がいらっしゃるはずだと思ったからでございます。ですが……」
言葉が切れた一瞬、大神官はあからさまにじろり、と、私へ視線を向けた。
「聖女様へお話を聞いても、それらしい神獣には心当たりがないと仰る。その後、思い出されたように、昨日、傷ついた黒猫を見かけたお話を伺いましてな。助けようとしたところ、そちらのユロメア公爵令嬢に、奪い去られてしまった、と」
「……っ」口から出かかった反論を、必死に堪える。
ここで声を上げたりしてはいけない。それでは、淑女としてのマナーがなっていないアリサと同格になってしまう。 私が何も言わないのをいいことに、大神官はばっと国王陛下へ向き直った。「国王陛下!ユロメア公爵令嬢の肩に乗った、漆黒の猫の姿……!やはり、聖女様の仰る通り、あれなる神獣様は公爵令嬢の手によって、聖女様より奪われたのです!これは、女神ロザリンデ様をすら冒涜する行為でございます!神獣様を、聖女様の御手から無理に奪うなどと……!あってはならないことだとこのラニエル、国王陛下へ陳情いたします!」
ぐわ、と苛立ちの籠もった様子で言い切った大神官に、国王陛下は小さく手を上げるだけで応えた。
「もうよい、大神官よ。そちの言い分については、先だって聖女アリサからも聞いている」
「でしたら、今すぐにでもあの令嬢に罰を――っ」 「まぁ待て」威厳のある国王陛下の声が、大神官を制した。きっと睨んできた大神官の視線に、私も睨み返す。
(そんな作り話で、勝手に罪を被せられる訳にはいかないのよ)
睨み合う私たちへと掛けられたのは、優しい王妃様の声だった。
「……わたくしはね、ジュリエッタ。あなたのことを、幼い時から見てきたつもりよ。だからこそ、大神官様の言うことが、信じられないでいるの」
「王妃様……」 「ああ、その通りだ。ジュリエッタ令嬢が、どれだけ真面目で、信仰深く、立派な令嬢であるか……我らは良く知っている。だからこそ、まずはお前から直接、事の次第を聞きたい」 「……っ!」国王陛下の言葉に、大神官が何か言いたげに拳を握りしめていた。
しかし、無礼にも国王陛下の言葉に口を挟むようなことはないようだ。「では、昨日この子に会った時のことを、お話しいたします」
小さく一礼すると、国王陛下と王妃様が、応えるように微笑んでくれた。
彼らの微笑みと、温かい視線に励まされ、ゆっくりと、丁寧に昨日の出来事を説明していく。隣にお父様がいてくれて、背後には、お兄様たちもついていてくれる……うん、私は大丈夫だ。 しかし、話自体は慎重に、ある程度曖昧にぼかすことにした。 ……特に、アリサが聖女にあるまじき発言をしたあたりは。 今ここに揃っているのは、程度の差はあれ、アリサが聖女でいることを肯定している人間たちだ。 私があまりにもアリサを悪いように話せば――例えそれが、真実だったとしても――全て私のでたらめだと、強い反発を買いかねない。 ……本当は、彼女の悪行を庇ってやるだなんて、そんなことしたくないのだけど。 でもこれも、自分と我が家を守るためだと、今は堪えて話を続けた。 案の定というか、話の途中から、謁見の間にはすすり泣きの音が混じり始めた。 ――アリサだ。 彼女は自分が被害者だと言わんばかりに泣き続け、次第に大きくなる声に、ヴォルシングが席を立ち、懸命に慰める始末だった。「……と、このような経緯で、現在に至ります」
「うむ……そうか」私が一通りの説明を済ませると、国王陛下は困り顔で顎のあたりを撫でていた。
……それはそうよね。多少ぼかしたとはいえ、私が話したロロとの出会いの経緯は、アリサの主張している内容とは正反対だもの。 聖女は、自分の神獣になるはずの黒猫を奪われたと言い、私は黒猫を押しつけられたのだと主張し。 これでは、どちらが真実なのかまるでわからない。「陛下……!違います!違うんです!」
泣きながら、アリサはぶんぶんと頭を振って大きな声を出した。
「私、本当に……!ジュリエッタさん!お願い、私の猫ちゃんを返して!」
「おいアリサ、今は冷静に……」 「ヴォルグ様ぁ!やだやだ、私、わたしの猫ちゃんなのに……!」 「わかったから、頼む、今は抑えてくれないか……」ヴォルシングが必死に宥めている様子に、私は同情の溜め息をついた。
……あんな子供みたいな子が婚約者だなんて、ヴォルグも苦労していそうね。 しかし、私のその溜め息をどう拾ったのか。 今までヴォルシングと一緒になってアリサを宥めていた大神官が、むっとした様子でこちらを振り返った。「国王陛下と聖女様の御前で、そのように嘘をつくなど……!ユロメア公爵令嬢、この場での発言は、天におられるロザリンデ様もご覧になっておいでなのですよ!真実だけを、仰っていただかなければ……!」
壇上から降りてきて、こちらに詰め寄ろうとする大神官と私の間に、お父様が進み出てくれた。
それにすかさず目をつり上げ、大神官はばさりと神官服の大袖を振る。「お下がり下さい、ユロメア公爵閣下!私は、ご息女に真実を問わねばなりません!」
尚も喚く大神官にぴしゃりと言い返したのは、お父様ではなく、低く落ち着いた男性の声だった。
「下がるのはお前のほうだ、神官よ」
窓から差し込む、きらきらとした陽の光。ふわりとカーテンを揺らす風が、頬を撫でて通り過ぎていく。 マーサの淹れてくれた紅茶も、格別の香りだ。 まさに完璧な朝の風景――の、筈だったのだが。「……ふむ。とても美味しいな」 陽の光がきらきらと反射する、さらりと揺れる黒髪。長い足を持て余すように組んで椅子に座る姿は、社交界の令嬢たちが悲鳴を上げそうなほど様になっている。すうっと切れ長の、女性が嫉妬するような長いまつげに縁取られた目は、煌めく深く青いサファイアがはめ込まれているよう。 一見、人形か何かかと目を疑うほど美しい男性は、優雅にティーカップを傾ける。……私の隣で。(いや……本当に慣れないわ。詐欺よ、詐欺だわ……) じとりとした目で見られていても全く意に介さず、新聞をばさりと広げた彼は、「ほう……?」といたずらっぽく瞳を輝かせた。「リーエ。ほら、ここの記事を見てみろ。――『王国全土を包む黄金の光、女神ロザリンデ様の祝福』だそうだ」 「……はぁ」 「俺たちのことも書かれているぞ。ほら、ここだ――『女神からの祝福、聖女に続き、神獣と契約した公爵令嬢が現れた』。有名人だな、リーエ」 「……あの。ロロ?」 「ん?なんだ?」 あまりにも人に馴染みすぎている神獣様に声を掛ける……と、美青年はこてん、と首を傾げた。 そう――この、私の横で寛ぎまくっているイケメンこそが、『あの』神獣ロロなのだ。「……いえ。なんでもありませんわ」 「そうか」 不思議そうな顔をしながらも、興味深そうに新聞に視線を戻すロロの姿に、私は再び小さく溜め息を吐いた。 新聞でも大きく取り上げられているらしい、王城へと呼ばれたあの日。 まばゆい光の中、私がロロと契約を結ぶと……光が収まった後にその場に立っていたのは、人間の姿になったロロだったのだ。 契約して完全な成獣となったロロは、神聖力を使うことができるようになった。 契約者である私と一緒にいるのに、この人の姿のほうが楽だ――とのことで、すぐに変化を
決して大きくはないその声に、謁見の間は水を打ったように静かになった。 声の主が、ひらりと私の肩から床へと降り立つ。「あ……貴方は、」 「聞こえなかったか?下がれ、と言ったんだ」 あれほどまでに勢いよく詰め寄っていた大神官が、再び発せられたロロの声に、一歩後退った。 すい、とお父様が立ち位置を戻すと、代わりに私の正面に立ったロロは、その小さい身体で堂々と、玉座を仰いだ。(こんなに小さな身体に、こんなにも多くの大人が気圧されるなんて……) 改めて、ロロが神獣なんだということを実感する。 そのまま固まったように沈黙してしまった大神官に代わり、静寂を破ったのは国王陛下だった。「先ほどの声は、貴方か」 静かな問いかけに、ロロは小さく頷く。「左様。俺の名は、ローエンマイン・ロジェルティア・アルファレア。お前たちが先ほどから話題にしている、神獣だ」 ロロの言葉に、遠巻きにしている大臣たちがざわり、とさざめいた。 国王陛下は、ふむ、と頷いて、席を立つとロロに向かって小さく頭を下げた。周囲の人々も、次々とそれに倣い、一礼する。「神獣ローエンマイン殿。まずはこの、アーヴェルト王国の国王として、挨拶をさせて頂きたい」 「ああ。よろしく頼む」 私はといえば、ロロのすぐ後ろで礼をとりながら、内心ハラハラしていた。 神獣は王族と並ぶ権威を持つ――それは理解しているが、ロロの国王への物言いが、どこまで許されるものだかわからないからだ。 幸い、国王陛下はロロの物言いに気を悪くはしていないようで、再び玉座に座り直した後も、柔らかな空気を纏ったままだった。「それで……神獣殿。貴殿が此度、神託にあった神獣ということで、間違いないのだろうか?」 「ああそうだ。俺は、そこの聖女のために、ロザリンデから遣わされた」 再び、ざわりと大臣たちが言葉を交わす。 一度は沈黙した大神官が、ぱっと表情を明るくして、何かを言おうと口を開いた――が。「――そう、俺は聖女のた
「久しぶりだな、ジュリエッタ令嬢」 「はい。ご無沙汰しております、陛下」 国王陛下は、優しい表情でうんうんと頷いてくれた。 私は、幼い時から第二王子ヴォルシングの婚約者だった。必然的に、国王陛下や王妃様に会う機会もとても多く、優秀な子だと、大変可愛がってもらっていたのだ。 ――異世界から、聖女がやってくるまでは。 しかし、婚約を破棄しても、陛下や王妃様から嫌われているわけではない。 今回も、話すら聞かず私に罪を問うような空気ではないことを感じて、私はほっとした。「本当に、元気に過ごしているようでよかった。こんな朝早くから呼び立てて悪かったな。実は、今朝早く、神殿に神託が下ったのだ」 「神託、でございますか」 「ああ。内容の説明は、同席させている大神官からさせよう」 陛下がすっとアリサの後ろへと視線を向ける。それを受けて咳払いしたのは、初老の男だった。 ずるりと床を引きずるような、真っ白に金の縁取りがなされた神官服。袖の部分に3本のラインが入っているのは、大神官である証だ。 その男は衣擦れの音をさせながらアリサの前へと進み出ると、厳しい目で私を睨み付けた。大神官には、あまり良く思われていないらしい。「……あー、えっほん。私は、この首都にあるロザリンデ教、主教会の大神官を務めている、ラニエルと申します。本日の日の出の頃、我が神殿の祭壇へと、神の御言葉がおりたもうたため、急ぎ国王陛下へと報告をいたしました」 丁寧に前置きをして、大神官は丁寧に頭を下げた。不機嫌な顔はそのままだが、きちんと礼儀はなっている人物のようだ。「それで、ロザリンデ様は仰られたのです。我が忠実なる遣いを、地に与えたもうた。聖女と共に、この国に繁栄をもたらせるだろう――と」 神の神託を朗々と告げると、胸元のロザリンデ像をかたどったネックレスを握りしめ、大神官は口早に祈りの言葉を呟いた。 ――女神ロザリンデ。このアーヴェルト王国において、王国の繁栄を約束し、豊かな実りと平和を授けてくれると言われている、女神だ。 この国に現れる異世界からの
茶番というか、見世物というか。 すさまじい泣きっぷりを披露しているアリサの次に、玄関口から飛び出してきたのは、第二王子その人だった。 ……私の幼馴染みであり、元婚約者であり……そして現在、聖女アリサの婚約者である、ヴォルシング・アーヴェルトだ。 私よりもふたつ年下の彼は、赤みがかったくすんだ金髪に、王家に伝わる紫の瞳をした、少年らしさの残る、可愛らしい美丈夫だ。年下のくせに、身長ばかりぐんぐんと伸びて、今では私の兄様方と変わらないくらいの長身になっている。 そういえば、会うのは婚約破棄をして以来だったな、と、ぼんやり思った。 彼はわんわん泣くアリサと、そしてドン引きしているこちらを順に確認して、アリサの横を通り過ぎた。「ヴォルグ様ぁ!」 「少し待て、アリサ」 縋るようにヴォルシングのズボンに手を伸ばしたアリサは、彼の静かな言葉に途端に喚くのをぴたりとやめる。 すすり泣くアリサを背後に、ヴォルシングはお父様の目の前まで行くと、小さく頭を下げた。「ユロメア卿。すまない、出迎えが遅れたな。……それから、その、少し……騒がしくしてしまって」 「ご機嫌よう、殿下。……そちらの聖女様のことは、よろしいのですか?」 決まり悪そうにしているヴォルシングへ、お父様がしっかりと頭を下げつつ尋ねる。怒ると言うより、呆れているような口ぶりに、ヴォルシングはそっと肩を竦めた。「俺は王族として、貴殿を出迎えに来たのだ。挨拶が先だろう」 「仰る通りですな」 ヴォルシングは、次に兄様たちへと会釈をして――最後に、私へと向き直った。 声を掛けられる前に、と――私はすっと、ドレスの端を摘まんで広げ、身体を沈ませる。「……久しぶりだな、ジュリエッタ……いや、ユロメア公爵令嬢」 婚約者でなくなった以上、今まで通り、互いを名前で呼び合うことも失礼なことだ。(ヴォルグは、しっかりしていて助かったわ) 「はい。お久しぶりでございます、殿下」 返事をして姿勢を戻す。と――ヴォルシングは、何とも言えな
ほんの僅か、白髪の交ざる髪を乱して、ついでに衣服もヨレヨレというものすごい外見で、お父様が素早く部屋の中を見渡し――。 やがてその視線は私と、私の膝でくつろいでいるローエンマイン様の姿を確認した。途端、音が聞こえるんじゃないかという勢いで、お父様の顔色が真っ青になった。「なんということだ……。いや、まさか、そんな……」 「お父様、どうなさったのですか?」 手で顔を覆い、がっくりと肩を落としたお父様の姿に、嫌な予感がする。(ただでさえ、ローエンマイン様から契約を迫られて困ってるっていうのに……また何か、厄介ごとでも起きたっていうの?) あまりにもショックを受けたお父様の姿に、お母様が立ち上がり、そっと寄り添った。「……あなた。何がありましたの?」 「……ああ。そうだな。すぐに出発しないといけないんだ」 「まぁ、どちらへ?」 多少冷静さを取り戻したらしいお父様が、お母様の手を握り、やっと顔を上げる。 その表情はとても、困り切っているように見えた。「説明は馬車の中でするから。ジュリエッタ、すぐに出掛ける準備を。……その、『膝の上の御方』も、お連れしなさい」 ……どうやら、私の悪い予感は的中したようだった。 お父様が、何か話を聞く前に、私の膝の上のローエンマイン様を、『膝の上の御方』と呼んだ。それだけで十分だ。「わかりました。すぐに王宮へ向かう準備を致します」 そう返事をして、ローエンマイン様を抱えて早足で自室へ戻る。 身支度を調えて屋敷からでると、玄関口には既に、正装に着替えたお父様とお兄様たちが揃っていた。お母様は、屋敷に残るらしい。 見送り際、お母様は私をぎゅ、と抱きしめて、ローエンマイン様にはそっと頭を下げた。「神獣様。娘を、どうかよろしくお願いいたします」 「案ずるな。ジュリエッタのことは、必ず守る」 馬車はいつもより速い速度で、王宮へと走りだした。私の隣にお父様が座り、向かいにはお兄様たちが座っている。 いつもより少しガタガタと
「……と、いうわけですの」 「…………」 翌日。 私は談話室にて、お母様とお兄様たちを前にして、冷や汗を流していた。 半ば尋問のような雰囲気の中、ローエンマイン様についての全てを説明し終えた私に、沈黙が重くのしかかる。 こんなことになったのは全て、今私の膝で満足そうに丸くなって喉を鳴らしている、ローエンマイン様のせいだった。 結局、一晩中契約を迫られ、断り続け……そんなことを続けている間に朝になり、私の様子を見に来たお母様に対して、あろうことかローエンマイン様がしゃべったのだ。「……む? ジュリエッタの母君か。世話になっている」――と。 当然、お母様は驚き、猫がしゃべったと悲鳴を上げ、それを聞いてお兄様たちがばたばたと駆けつけてくる騒ぎとなり……。 あれよあれよという間に、朝食を兼ねた軽食が並べられたこの談話室にて、取り調べが始まったのだった。(もう……どうしてこんな目にー) 嘆いたところで、ローエンマイン様が神獣であることには変わりない。 彼を助けると決めたのは私なのだから、責任を取らないといけない、とも思っている。 でも……。 ちら、と、正面に座るお母様たちの顔色を窺う。 お兄様――上のお兄様が深い溜息を吐いたのは、その時だった。「――ひとまず、事情はわかった」 「アルト兄様……」 上の兄――長男アルト・ユロメアは、私と同じハニーブロンドに新緑色の瞳の美男子だ。 頭脳明晰なお父様の部下として、また王城にて政治に関わる出世頭として、社交界でも人気の独身男性。 そんな完璧人間の長兄に続いて、下の兄――次男ウォルター・ユロメアが、静かに頷いた。「やはり、リーエは天使のように優しいのだな。さすが俺の妹だ」 「ウォルター兄様……!」 「なんだリーエ。俺は間違ったことは言っていない」 ウォルター兄様は、新緑色の瞳に、お父様譲りの短い茶髪をツンツンさせている。こちらももちろん、アルト兄様と別タイプの美男子として有名だ。







